デス・オーバチュア
第48話「赤紫(せきし)」



無数の肉片の浮かぶ赤い血の海。
僕はそこで生まれた。
僕は今物心がついたばかり……生まれたばかりの存在だが、二つだけ明確に解っていることがあった。
この血の海を生み出したのが僕自身だということと、この血と肉片が誰の物かということだ。
「…………」
視線。
背筋が凍りつくような冷たい視線を感じて僕は振り返った。
白いコートの金髪の男。
華麗で気高い印象を与える白いコートを、裸の上半身にラフに羽織っている。
輝く金色の髪は白ずくめの衣装と象牙のように白く繊細な肌によく生えていた。
女性よりも端正な顔立ち、色気すら感じさせながらその美貌はどこまでも冷たい。
だが、この男の最大の特徴は、質素なのか派手なのか解らないファッションでも輝く金色の髪でも女性的な美貌でもなかった。
氷の瞳。
どこまでも冷たく透き通るような青い瞳だ。
「…………」
なぜかこの男の正体が……僕とどういう関係か、そして、僕をどう思っているのかが解る。
いや、生まれる前から知っていた。
「……ふん、オッドアイ(色違いの瞳)か」
男は口元に微かに皮肉げな笑みを浮かべながら呟く。
オッドアイという言葉の意味は解った。
どうやら、僕の瞳は左右で違う色らしい。
まだ生まれてから一度も自分の顔を見ていないのでいまいちピンと来ないが。
「よし考えるのが面倒臭いから、お前の名前はオッドアイでいいな」
勝手に僕の名前を決められた。
しかも、考えるのが面倒だから、オッドアイ……僕の外的特徴が僕の名前?
「おい、クソガキ」
クソガキ呼ばわり……名前呼ぶ気がないのなら、なぜ、僕に名前をつけた?
「衣食住をくれてやる。ついてこい」
「…………」
それだけ言うと男は僕に背中を向ける。
僕の返事など待たない、僕の意志など意に介しない、僕がついてくるのが絶対のことしてすでに決まっているかのように、男は歩き出した。
「……解ったよ、あんたがくれるっていうモノは全部貰ってやるよ。僕にはその権利が……あんたにはその責任が……ある……」
僕は血の海から立ち上がる。
「……じゃあね、母さん」
かって僕を体内に内包していた者、僕が内側から食い破った物、今はただの血と肉片に過ぎないモノに、僕は別れを告げた。



浸食してくる『力』と『意志』に、自らの力と意志で抗う。
「はあぁっ!」
オッドアイを呑み込んでいた黄金の光輝が消えた。
「……ふん」
オッドアイの肉体と精神は限りなく無傷である。
かってのあの男から考えられないほど脆弱な力だった。
だからこそ、耐え切ることができたのである。
「なんと脆弱な、それでも光皇と……なっ!?」
ルーファスの姿は完全にオッドアイの視界から消え去っていた。
「逃げただと?」
ありえない。
あの男が自分相手に逃げるなど……いくら、力の大半を失っているとはいえ、そんなことが……。
「……そこかっ! 青魔天威槍(せいまてんこうそう)!」
オッドアイの右掌から無数の光輝の槍が同時に放たれた。
光輝の槍達は果てのない空間に吸い込まれるよう消えていく。
「一発一発が一撃で高位魔族を完全消滅させる威力を持つとはいえ、たった三十六発しか瞬時に創れないんじゃ、たいした驚異じゃないよ」
オッドアイの背後に声と気配が生まれた。
「くっ! 青魔……」
オッドアイは振り返ると同時に光輝を放とうとする。
しかし、そこにルーファスの姿はなかった。
「なっ!?」
そこにあったのは一個の光球だけ。
虚をつかれたオッドアイの前で、光球が二つに増殖した。
二つが四つに、四つが八つに……と光球はどんどん増え続けていく。
アッと言う間に百を越える光球がオッドアイを包囲するように展開していった。
「光輝乱舞!」
どこからともなく聞こえてくるルーファスの声に反応するように、全ての光球が同時にオッドアイに襲いかかる。
避ける隙間の存在しない全方位からの攻撃だった。
「なめるなっ!」
光球の一斉爆発により生じた光輝の奔流と爆炎がオッドアイの姿を覆い隠す。
光輝と爆炎が晴れると、エナジーバリアを展開し無傷なオッドアイが姿を現した。
「あらら、『防がない』と耐え切る自信がなかったのかな、オッドアイちゃんは? お前の千分の一以下の力しかない俺の攻撃で?」
小馬鹿にするようなルーファスの声。
「なっ! 黙……」
オッドアイの言葉を遮るように、突然、目の前にルーファスが出現した。
「じゃあな、オッドアイ。今度、もっと暇な時に会ったら遊んでやるよ」
ルーファスの右足が黄金の輝きを発する。
「光輝蝎針脚(こうきかつしんきゃく)!」
ルーファスは後ろ回し蹴りで、エナジーバリアごとオッドアイを蹴り飛ばした。
「なあああああぁぁっ!?」
オッドアイの姿が、声が果てのない空間に吸い込まれるように遠ざかっていく。
「まあ、頑張って元の時代に自力で戻れよ」
しばらくすると、オッドアイの姿は完全に消え去った。
「さて、クロスを無視……いや、後回しにしたいところだが、流石にそれをすると再会した時タナトスが怖いからな……拾いに行ってやるか」
ルーファスは周囲を見回す。
ルーファスは、どこに落ちれば、どの辺の時代に落ちるか……その全てを見通し、目的の時代に繋がる空間を測定するとそこに飛び込んだ。



「だああぁ!?」
突然、空から出現したクロスはそのまま地上に激突した。
「……痛っ……まったく、なんてことしてくれるのよ」
痛みを堪えて立ち上がると、周囲を見回す。
果ての見えない広大で荒涼な大地が広がっていた。
草一本生えておらず、生き物一匹いない、生気というものが欠片も感じられない死の大地。
「太陽も無ければ、空気も瘴気、邪気といっていい程汚れきっている、それなのに……」
クロスは大きく深呼吸をした。
「それなのに、どうして体の調子がこんなに良いの!?」
体中から魔力が『力』が際限なく溢れ出してくる。
それに、さっき地面に激突した際にもまったくダメージを受けなかった。
「今ならやれる! 上位魔族だろうがなんだろうが敵じゃないわ!」
この力を試したい、発散したくて我慢できない。
『では、試してみますか?』
こまおとしか何かのように、誰も居なかったはずの場所に突然、人影が現れた。
赤紫。
ピンクにも見えなくもない赤みがかった紫。
その人物は赤紫のマントともコートもつかない長布で全身を隠すように包み込んでいた。
髪と瞳もマントと同じ赤紫である。
顔立ちは中性的の見本というか、男なのか女なのか判断の難しい容貌だった。
ただどちらの性別だったとしても美形であることだけは間違いなく、妖しい魅力すら感じさせる。
「あなた魔族?」
「この魔界に魔族以外の者が居る確率はとてつもなく低いですよ、一応人間のお嬢さん」
赤紫の人物は優しげに微笑みながら答えた。
「それはそうよね、じゃあ、お相手願えるかしら? 魔族ってのは特に理由がなくても殺し合いや戦闘をするんでしょ?」
「そうですね、戦いたいから戦うで理由は充分ですね。もっとも、中には野心や憎しみで戦う者もいますが、そういった者の方が希ですね」
「ふ〜ん、じゃあ、行くわよ!」
「いつでもどこからでもどうぞ」
「じゃあ、遠慮なく!」
クロスが相手に向かって跳ぶ。
体が異常に軽い、これなら地上での三倍から五倍ぐらいのスピードとパワーが発揮できる!……ような気がした。
「七霊七色! 七つの光よ、ここに集え! 七霊断罪光(しちれいだんざいこう)!」
クロスの右拳から赤、青、黄、緑、白、黒、紫、七つの光が放たれ、赤紫の人物に襲いかかる。
「なるほど、火、水、雷、風、光、闇、魔の七種の元素……いえ、神霊を同時に放つ術ですか。確かにこれならどんな属性の相手にも確実にダメージを与えられますね。とても器用な方……」
その瞬間、赤紫のマントの中から七つの何かが飛び出した。
七つの飛来物は七つの光とそれぞれ衝突する。
七つの光は赤紫の人物に届くことなく、飛来物と衝突した瞬間に消滅した。
「なっ……?」
直後、地面に何かが落ちる。
「……ナイフ?」
七本の色鮮やかなナイフが地面に転がっていた。
「赤、青、黄、緑、白、黒、紫の七色のナイフ……まさか?」
「ええ、偶然ですね。赤のナイフには火の力が、青のナイフには水の力が……と偶然あなたの七光とまったく同じ力を持ったナイフがぶつかったみたいですね」
「ぐ、偶然ね……」
そんな偶然があるわけがない。
火の属性のナイフで火の力を吸収、水の属性のナイフで水の力を……と全て狙って行ったのは間違いなかった。
「なら、これはどう? 黒霊破壊光(こくれいはかいこう)!」
クロスの右手から放たれた黒い光が赤紫の人物に直撃する。
いや、正確には黒光は相手に届いていなかった。
赤紫の人物の目の前に漆黒のナイフが浮いている。
黒光はそのナイフに吸い込まれるように消滅していた。
「ちっ! どうせ七霊魔術なんて直撃したってたいしたダメージ無いんでしょう? だったら、喰らってくれてもいいじゃない!」
「どうゆう理屈ですか? まあ、確かにその程度の破壊エネルギーなら、エナジーバリアを展開するまでもなく、ただ身構えて我慢するだけでノーダメージにできますが……」
「やっぱりね、これだから上位魔族って奴は……嫌いなのよっ! 白霊天光覇(はくれいてんこうは)!」
クロスの左掌から白光が放たれる。
「今度は聖属の破壊エネルギーですか、それなら……」
漆黒のナイフがマントの中に消えると、代わりに純白のナイフが中から飛び出した。
白光は全て純白のナイフに吸収され消滅する。
「くっ……何よ、あなたのその地道な戦い方!? 上位魔族なんでしょう? もっと圧倒的な破壊力とか攻撃力で戦ったらどうなの!?」
クロスは明らかな言いがかりというか因縁を相手に叩きつけた。
「そうですか? では、ご期待にそえるか解りませんが……こちらからも攻撃させていただきましょう」
「そうよ、そうしなさ……よっ!?」
突然、赤紫の人物がクロスの眼前に出現する。
腹部に衝撃を感じたと思った瞬間、クロスは吹き飛ばされていた。
ぶつかった岩を砕きながら、クロスは吹き飛び続ける。
そして、崖の壁面にくい込むようにしてようやく勢いが止まった。
「……や、やれば……できるじゃないのよ……」
赤紫の人物が何をしたのかは解っている。
とても単純なことだ。
一瞬でクロスとの間合いを詰め、クロスを蹴り飛ばした……ただそれだけ。
「……上等よ! 肉弾戦は望むところよっ!」
クロスは跳躍し、一気に赤紫の人物と間合いを詰めた。
「銀の拳で悪を討つ! 滅殺! シルバーナックル!」
「これは……んっ」
赤紫の人物の姿が微かにぶれる。
クロスの銀色の拳は、赤紫の人物の僅かに横の空間を打ち抜いた。
「七種類の属性の混合魔力……流石にそれは吸収も中和もできませんね。本当に器用な術を使う方……」
「一瞥しただけでひとの必殺技の全てを見抜かないで……よねっ!」
クロスは追撃の横蹴りを放つ。
しかし、それも先程の拳と同じように、赤紫の人物の最小限の体さばきであっさりと回避されてしまった。
「さて、では、今度はこちらの番ですか?」
赤紫の人物はいつの間にかクロスと間合いをとっている。
クロスが一度瞬きした瞬間、先程まで何も無かったはずの赤紫の人物の周りに数え切れない程の無数の銀色のナイフが浮いていた。
「無限の刺殺」
ナイフ達が一斉にクロスに向かって解き放たれる。
「ちっ!」
考えるよりも速く、クロスは上空に跳び、同時に魔力を己の体を守るように放出した。
「魔力障壁ですか、人間離れした高純度の……しかし、無意味です」
ナイフ達はクロスを追うように方向転換する。
そして、クロスを包み込む巨大な黒い光の幕を貫いた。
「くっ、ああああっ!」
クロスは両拳で、幕を抜けてきたナイフ達を叩き落とす。
だが、全てを叩き落とせるわけもなく、心臓や額などの急所に至るナイフだけを辛うじて弾くのがやっとだった。
「ぐぅ……はあぁっ!?」
クロスの体中にナイフが突き刺さる。
黒い光の幕は完全に消滅し、クロスは地上に落下した。
「破邪の純銀で作った我がナイフの前では、全ての『魔』は力を失います」
「……ま、魔族の使う武器じゃない……わよ……あなたこそ、魔の塊でしょう?」
針鼠のように体中にナイフが刺さったままの姿でクロスが立ち上がる。
「そうですね、この体は魔性族、純度100%の由緒正しい魔族のモノですが、何か?」
「……魔性族……なんか聞いたことあるような気がするわね……あれ、聞いたことあったのは羅刹族だったかしら?……はああっ!」
気合いと共に、クロスの体中からナイフが弾け跳んだ。
「魔性族と羅刹族は良く間違えられる種族ですからね。どちらも見事な紫色の髪と瞳が特徴的な種族。魔力の強さと魔法魔術の多才さが売りの魔性族、魔界の三種の鬼神の中でもっとも凶暴な破壊を司る鬼族である羅刹族……」
「羅刹……か……」
クロスは体中から血を吹き出しながらも、赤紫の人物からゆっくりと後退していった。
「逃げる……わけはありませんね。呪文詠唱の為の間合い稼ぎですか? そんなことをしなくても呪文完成まで待ってあげますのに」
クロスは後退しながら、何かを呟いている。
「……その余裕があなた達魔族の最大の弱点よ!」
クロスの突き出した両手に多種多様な光が集まり、荒れ狂い、クロスの姿を覆い隠した。
「なるほど、鬼神との契約呪文ですか……」
光の奔流は激しさと巨大さを際限なく増していく。
「三鬼刃王神(さんきはおうじん)!」
クロスの何百倍もの大きさの光の奔流でできた球体が、赤紫の人物に向かって一気に解き放たれた。



「……はあはあ……流石にこれなら……なぜか地上で使った時の十倍近い威力があったし……」
元から何もない荒涼たる大地だったから良かったが、もし地上で使っていたら『国』が一つまるごと余裕で吹き飛んでいただろう。
それほどの威力だった。
弾けた光の奔流がゆっくりと晴れていく。
「素晴らしいっ!」
「なっ!?」
何事もなかったかのように、その人物はそこに立っていた。
「瞬間的とはいえ、上位魔族の域にまで達した一撃! 中位までの魔族なら一撃で存在を完全抹消されていたことでしょう」
「…………」
「ですが、上位と中位では決定的な開きがあるのです」
「……開き?」
「……こういうことですよ」
赤紫の人物の瞳が妖しく光ったと思った瞬間、凄まじい『衝撃』が発生した。
赤紫の人物は何もしていない、ただ立っているだけ。
にもかかわらず、赤紫の人物を中心に、爆発的な衝撃波が放たれ、クロスを吹き飛ばした。
「これが上位下級魔族。その有り余るエナジーを戦闘方向に発散した基本状態です」
「……がぁっ……ぐぅぅ……」
壁に叩きつけられたクロスは心臓を押さえてうずくまっている。
「感じますか? 上位クラスの魔族の存在するだけで発生する圧力……プレッシャーを……」
こまおとしのように、一瞬で赤紫の人物の姿がクロスの眼前に移動した。
「そして、これが……」
突然、クロスの背後の崖が爆発する。
いや、跡形もなく『消滅』したのだ。
「ただの軽い拳の一撃、ジャブ(弱拳)とでも言ったところですね」
「……ぐぅぅ……」
「あなたのさっきの一撃は、今の状態の私が全力で殴った程度の一撃……ストレート(強拳)と同じぐらいの威力でしたね」
「……ジ、ジャブに……ストレート……?」
「知りませんか? 人間の世界の拳闘術の基本用語のはずなのですが……」
「……ああ、そういえ……ば……西方の方の体術でそんなのあった……かもね……ふう」
クロスは荒い呼吸を整え、ふらつきながらも辛うじて立ち上がる。
「ほう、もうこのプレッシャーに慣れましたか? やはり、あなたは人間でありながら中位中級並みの魔力と精神力をお持ちですね」
「……言っておくけど、三鬼刃王神はあたしの最大の術じゃないわよ! あたしにはまだ奥の手があるのよっ!」
「では、どうぞ、それもお見せください」
赤紫の人物は見下すわけでも馬鹿にするわけでもなく、穏やかな笑顔でそう言った。
「……馬鹿にして……」
「いえ、期待しているだけです」
「今度こそ後悔させてあげるわ!」
クロスは後方に跳んで間合いをとる。
こちらが魔術を完成するまで向こうは攻撃してこない……その不確かな約束が守られることを前提にした行動をクロスは始めた。
不確か、向こうの気まぐれで簡単に破棄される約束。
だが、おそらく約束は破られることはないだろう。
それだけ、向こうが自分を下に見ているということを確信していた。
その油断こそが命取り。
「南の支配者、奔放たる赤の魔王よ! 血の根元たる夜の王よ!」
「……ん?」
赤紫の人物が僅かに顔を歪めた。
「我は汝、汝は我なり……」
「南の魔王?」
「……受けよ、赤き戦慄! 赤流剣山(せきりゅうけんざん)!」
静寂。
数秒の時が流れるが、何も起こることはなかった。
「……な、なんで? 魔力だってまだ有り余ってるはずなのに!? 魔界に来てから爆発的に力が上がっているはずなのに……なんで発動しないのよっ!」
動揺するクロスを、赤紫の人物は無言で見つめている。
「……なるほど」
そして数秒後、赤紫の人物は一人納得したように呟いた。
「なぜ、魔術が発動しなかったのか教えて差し上げましょうか?」
「…………」
クロスは赤紫の人物を無言で睨みつける。
確かに理由は知りたかったが、ここで相手に教えてと聞くのも何か嫌だというか、何かマヌケな気がした。
「あなたはかなり未来の時代から来たのですね?」
質問するというより確信を持っていることを念のため確認するようかのように尋ねる。
「……なんでそれを……」
「簡単です。あなたが先程唱えた呪文に対応する魔王は存在しないからです。少なくとも『今』はまだ……」
「えっ?」
「南の魔王の名前はセリュール・ルーツ(原初の細胞)、全ての無性体の王、根元たる魔、もっとも古き存在……」
「……魔王が違う?」
「ええ、おそらくあなたが契約した魔王はこの時代にはまだ誕生すらしていないのでしょう。それでは、魔術が発動するわけもありません」
「くっ……」
「では、最後にもう一つだけ教えてあげましょう」
「えっ?」
「はああああああああはあっ!」
「えっ……きゃあああああああああっ!?」
赤紫の人物が気合いの声を発した瞬間、先程の数百倍、数千倍の衝撃波が発生した。
クロスを吹き飛ばすだけでなく、遥か彼方に見えた岩山や崖が衝撃波で崩壊していく。
魔界全てが震撼しているかのようだった。
「これが上位上級の中の選ばれた者……即ち魔王クラスのプレッシャーです」
「なあっ!?」
衝撃波の嵐がおさまった瞬間、赤紫の人物の姿が消える。
次の瞬間、クロスは上空から凄まじい衝撃を感じ、地上に叩き落とされた。
「……う……ぅっ……」
うつ伏せで地面にめり込むように倒れていたクロスが辛うじて顔を上げる。
眼前に赤紫の人物が佇んでいた。
「名乗りが遅れましたね。セリュール・ルーツと申します。どうぞ、気軽にセルとでもお呼びください」
赤紫の人物……セルは右掌でクロスの顔面を掴むと、彼女を力ずくで軽々と持ち上げる。
「ぅ……ぐぅ……」
「別に殺しはしません。ただ、私はあなたに大変興味が沸きました。ですので、あなたのルーツ(起源)を私に見せてください!」
「……ぁ……ぁぁ……あああああああああああああぁぁっ!」
顔面を握る掌の力が急激に強まり、クロスが悲鳴を上げた。
「もしかしたら、ルーツを探る際に、貴方の脳が負荷に耐えきれずに焼き溶けてしまうかもしれませんが……その時はごめんなさい、予め謝罪しておきますね」
セルはどこまでも穏やかで優しげな笑顔でそう告げる。
「では、参りましょう、しばし、現世にお別れです」
セルの右手が赤紫に光り輝いた瞬間、クロスの断末魔のような絶叫が魔界に響き渡った。













第47話へ        目次へ戻る          第49話へ






一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



簡易感想フォーム

名前:  

e-mail:

感想







SSのトップへ戻る
DEATH・OVERTURE〜死神序曲〜